kick the base

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書評: ちーちゃんはちょっと足りない

今回はマンガ「ちーちゃんはちょっと足りない」についての書評です。

ジャンルとしては何になるんでしょうか。日常系というのが当てはまるような気がしますが、そこに癒やしはありません。可愛いタッチの絵に一見騙されがちですが、本書は救いのない物語です。

大きな喜びや悲しみ、怒りや楽しみなどのダイナミックな出来事ではなく、それらを支える何事ものない日常そのものがいかに僕らをかたち作るか。ということを強く意識させられる作品です。(とある事件が作中で起こり、それによって物語は動いていくのですが、その事件が起きる要因を生み出した日々こそがこの作品のテーマでしょう)

あなたはどこに所属しているか

本書は読者の属している場所によって、大きく評価が変わる作品かもしれません。

読み手である僕たちは、どのキャラクターに共感できるでしょうか。学業はおろか善悪の区別すら怪しいちーちゃんか、ちーちゃんほどではないけれど学業成績優秀とは言い難く、歪んだ自己愛に翻弄され続ける小林ナツか、学業優秀で裕福な家庭に育ち、彼氏もいる旭か。

ちなみにぼくは小林ナツに感情移入しながら読みました。肥大化した承認欲求で勝手に息苦しくなっていた若かりし頃の自分自身を重ね合わせて吐きそうになるほどに。

つらい。

義務教育、特に中学校という場所

日本では中学校までが義務教育ですが、これは多くの場合同じ地域に住んでいるという理由でひとつの場で生活を強いられます。(私立の場合は別ですが)

高校・大学には入学試験があり、社会に出れば入社試験があります。試験を通過していく過程で選別が行われ、そこに集まる人間にはある程度の均等性が見れるでしょう。

しかし、中学にはそれがありません。バックグラウンドも経済格差もごった煮にした個々人がただ近所に住んでいるという理由で共同生活を送ることになります。

「何かが足りないこと」は「足りている状態」を知ることでもたらされます。自分には手が届かないモノを何不自由なく持っている人が回りにいる。しかも自然に。多感な彼ら彼女らはその時何を思うでしょう。

つらい。

どうにもならない僕ら

世の中は生まれた瞬間から不平等で理不尽で、納得の行かない事だらけです。社会人になれば自分の努力次第である程度の結果なら手に入れることが出来ます。腕力でなんとかなる。

しかし未成年の子どもたち、それも思春期の大人になりかけた子どもたちにはまだ難しい。生まれた環境を呪うこともしばしばでしょう。

自分からは特に努力もせず欲しがるだけ。確かに自分勝手でわがままな考え方ですが、誰しも一度は通った道ではないでしょうか。それともみんな足りないものはないんでしょうか。怖いものはないんでしょうか。嫉妬するものはないんでしょうか。

そして本書の秀逸なところは、上記の「大人になったら欲しいものは自分で手に入れられる」という言葉を不良のキャラクターである藤岡に語らせているところです。読者がキャラクターを救うことを許さない、徹底してカタルシスを与えないまま物語は進んでいきます。

つらい。

まとめ

陳腐な言葉ですが、胸がしめつけられるような、そんな作品です。総じて救いがない。 しかし、救いがなくても生きていかなければならないのが人生なら、本書は実に人生的と言えます。

ちーちゃんやナツはこれからどんな人生を歩むのでしょう。どんなに足りなくても、どんなに絶望的でも、人生は続いていきます。どんな環境で、どんな方法で彼女らは欲しいものを手に入れていくのでしょうか。

オススメです。